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19

その日から、オレは芝居を開始した。
出来るだけ……光を感じ、目が見え始めたことだけは悟られないように。
「見えていない」ということは、相手も油断して隙が出来るからだ。

バールが言っていたとおり、俺の体は「回復」よりも「再生」に近いらしかった。
というのも、こんなに長い間、寝たきりの生活では、筋肉がすっかり落ちてしまって、正常に機能しないはずである。
下手すると、歩けなくなってしまうはずだ。
しかし、手足はどうやらちゃんと働いてくれているようであった。
助かった。体への後遺症は残らなかったようだ。

(オレはオレだ。まだ、死んじゃいねえ! )

「なあ?……バール 」
オレはダメもとで聞いてみた。
「そろそろ……風呂に……その、入りたいんだけれど……ダメかな? 」
皮膚が出来るまでは、何も出来ずに、そのあとは、彼が丁寧に清拭してくれていた。きちんと手入れはしてくれているようだ。
バールは、暫く考えていたが、
「そうですね。……そろそろいいでしょう。負担がかからない程度になら…… 」
これは……もしかすると、上手くいくかもしれない。
オレは、少し期待を持った。

風呂場は、確か……長い渡り廊下を、歩いていかなければならない。
久しぶりに、部屋を出ることが出来て、内心ほっとしていた。
さて……ここからが、勝負だが。

歩いていく途中で、オレたちは、いかめしいおっさんたち数人と出会ってしまった。

……彼らは、どうやらオレのことを、よくは思っていないらしい。
訓練生以上の憎悪と殺気を感じる。

「バール殿、どちらへ行かれるのです? 」
嫌な響きの声だ。
「いい気になりなさんな。……どうやって、あの場所から助かったかは分からんが、我々は認めない 」
荒々しい、突き放すような言い方……。
「老師さま、お言葉を返すようですが……」
明らかに、バールとこいつらの意見は違っているようだ。
彼らはこの場所で、小競り合いを始めた。

今、この場所では、バール以外はみんな敵だ。
禍々しい……思い空気……嫌だ。
バール一人では、到底、太刀打ちできない。

(このやろう )

オレは、無意識に念をこめて……払いのけるように、気を使ってしまった。
一瞬、何が起こったのかわからなかったが、側にいた奴らが……突然何かにぶつかったように、はじけ飛んでいった。

???

(……なんだ、こりゃ??)

しかしこの時バールも……同じようにカベに叩きつけられたようだった。

(えっ……!?)

……オレ以外……まともに立っている奴は、オレの周りからすっかりいなくなっていたのである。気絶しているのか、動かない。気の動きで読むことが出来た。

(これって……チャンス??)

渡り廊下から、外に出たことは以前にもあった。

バールの様子も気になったが……彼をそのままにして、オレは再び外を目指した。
今度こそ……自由を手に入れるために。

表へ出てすぐに木々の間に滑り込んで、包帯をはずした。
完全に戻っているわけではないが、何とかなりそうだ。
バールたちの気も感じられない。

しかし……以前と同じだ。木々の枝が行く手を阻む。ましてや、自分の髪の毛もオレにとってはリスクになっていた。
ああ、うっとおしい。絡まってしまいやがって……。
はずそうとして……ふと気が付いた。
……あれっ? オレって、こんな髪の毛の色だったっけ??
脱色したか染めたような……プラチナブロンドっていうか……。なんだ、こりゃ??
例の水で色が抜けちまったのか?
……そういえば、手の色も変だ。しげしげと見つめた。
目が……まだ治っていないからなのか?

考えていくと、頭が変になりそうなので、そこで辞めた。
こんなところで、のんびりするわけにはいかない。
今度は、ある程度なら、人の気配が遠くまで分かる。
(気が読めるって……案外便利な能力だよな、これって )
ましてや、この辺は人が住んでいないと聞いていたし……実際にいないようだった。

感覚のままに、オレはあの人の家を目指した。

やがてほどなくして、あの小屋につくことが出来た。
オレは、迷うことなく戸をノックした。

「はーい」
と……元気なあのガキの声がして、戸が開いたのだが……奴の顔が一瞬にして変わってしまった。……とても驚いた顔をしていた。
「……あ、久しぶり。」
「あのぉ……?どなたです?」
奴は本当に、分からないようだった。
「……前に、助けてもらったんだけどな。覚えてないかい? 」
「???」

しばしの沈黙が流れた。

「ジョイ?……お客さんか?」
奥から、爺さん……バードランドの声がした。
「タツヒコです。……以前、助けていただいた」
その言葉に、ジョイは、再び驚いたようだった。
「ええっ!!……もしかして……にぃちゃん??」
「……そうだよ 」
オレは、苦笑した。やってきたバードランドも……ジョイと同じように、驚いたようだった。

「にぃちゃん、変身したのか? 」
ジョイは、まだオレを不思議そうに眺めている。
(……子供番組みたいないい方すんなよ。そんな簡単な問題じゃねーんだから…… )

あれから、ジョイに「姿見」を借りて自分を映してみた。
……やっぱり、変だ。……もう以前の自分の姿形ではない。
……知らない男?がそこにいた。
……って言うか、男なのか女なのか分からない誰かだ。
オレも驚いたが・・・もうこんなことが続くので、あきらめたというか、騒ぐこともない。……。

二人は丁度、食事の用意をしているところだった。
……って、オレっていつもこういうタイミングで、彼らに会っているよな。

バードランドを手伝いながら、オレは今まで遭った事を全部話した。

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