18
全く覚えていなのだが、オレはずっとうなされながら、泣いて侘びを入れていたらしい……。
やがて……日にちぐすりとでも言えばいいのか、徐々に痛みが和らいでいった。それでも、かなりの年月は流れたんだと思う。
顔の機能も回復し始める。聴覚・味覚・嗅覚・触覚……目だけはなかなか回復しないようで、最後まで包帯は残ってしまったが。
怪我の功名か、お陰で「六感」というやつが鋭く研ぎ澄まされたのだろう。
他人の気配やその動きが、おおよそつかめるようにはなっていた。
見えていないのに見えているとでもいうのだろうか。
「……バールか? 」
彼が部屋に入ってきたのに気づいたオレは、体を起こし、声を掛けた。
「ああ……起こしてしまいましたか。」
奴は、目の治療の用意と飲み水の替えを持ってきたようだった。最近はそればかりだ。
こまごまと何かと世話を焼いてくれる。
……前までは、たまに一緒に練習していた奴の一人とか、他人に任せていたはずなのに。
怪我?をしてから、限られたものしかこの部屋に入れないようにでもしているのか……ますますオレは、奴から離れられなくなっていきそうだ。奴の存在が大きくなる。
「随分、戻られましたね。この分なら立ち上がって歩き出すのも早いでしょう 」
「……それでも……どれだけ、かかったんだかな?……オレの髪……ほら、体中まとわりついてて気持ち悪いや。切ってくれよ 」
見えなくても、相当伸びているのが感覚で分かる。うっとおしい。
「勝手に切ることは許されません。貴方の髪の毛一本にも、力が備わっているのですから 」
「……なんだよ、それって?」
……又わけの分からないことをバールは、言い出した。
「自分の体をどう使おうが、勝手だろうがっ!」
オレのむっとし様子に、バールも負けてはいない。
「今は……貴方の体であっても、貴方だけのモノではありません 」
「どういう意味だ? 」
「貴方の現界人としての人生は終わりました。人型をされているとはいえ、
『神の水』によって貴方は浄化・再生されたわけです。簡単に言えば、生まれ変わられたということです 」
「は?オレの……人生は終わったというのか? 」
「元来……貴方は人間ではなかったのですから・・・・・・どうなんでしょう? 」
話が、大変な方向に流れていった。
オレは、人間としては死んだということなのか??
オレは……はっとして、尋ねてみた。
「そうだ!……オレと一緒にあそこに投げ込まれた奴らは? 」
「あの者たちは……気の毒ですが、生贄として『神の水』そのものになってしまった。貴方とは違うんです 」
……眩暈がする。気分が悪い。
「何であんな場所に……あんな危険なものがあるんだよ…… 」
「言ったはずです。この辺一体は聖地。一般人の出入りするようなところではありません。……一般人でも、ごく限られたものだけしか立ち入ることは出来ません 」
……オレはなんて間抜けなんだ。変な男の口車に乗せられて、まんまと罠にはまったような気がする。
「しかし……今の貴方にならあの場所は力を与えてくれるはずです 」
「そんなもん……言われたって嬉しくも何ともねえよ 」
「この話はまたあとで。これから、目の状態を見てもらうことになってますので 」
バールは、部屋の明かりを落とし、さっさと準備を始めたのだった。
それから、オレは目の診察を受けたのだが、術師の話だとオレの目の組織がまだ完全に出来ていないということで、再び閉じられてしまった。
薄明かりは感じることが出来るようにはなってきたので、あながち嘘でも無いだろう。
……とはいえ、目の不自由なのには参った。
気は読めたって見えるわけではない。
かといって元はといえば、自分のしたことなので文句も言えない。
……そういえば、あの男、オレを騙した野郎はどうなったんだろう?
診察が終わったあと、術師とバールとが話し始めた。
「順調で何よりです。あと少しというところですね 」
「ありがとうございます 」
「……しかし、その回復力もさながら、お会いするたびに神々しく綺麗になられてきましたね。『指導者』としての片鱗もうかがえる。……なるほど、これなら皆が納得されるに違いない 」
術師はそういって褒めてくれているようなのだが……男が『綺麗』だと言われても大して嬉しくも無い。
かっこいいとか、もっと他の言い方があるだろうが……とオレは内心ムッとしていた。
バールが続けた。
「いいですか?このことは、他言せぬようにお願いいたします 」
「分かっております。バール様。……で、『式』のご予定は? 」
「それが……元老たちの反対もあってなかなか…… 」
またまた、気になる言葉が出てきやがった。
「『式』?……式って一体何なんだ? 」
オレは口を挟んだ。怒られるのを承知して。
バールは、相変らずの冷たい口調だ。
「貴方を正式に此処の地区の指導者として宣言するんです。分かりやすく言えば、お披露目とでも、言いましょうか 」
「ばかいうなっ!!オレは嫌だっ!勝手に決めんじゃねえっ!! 」
オレは、大声で叫んでいた。
ここの世界は、オレの話を誰も聞いてはくれないのか?
オレを『神の水』に投げ込んでこんな風にした男だって……。勝手にオレのことを
解釈しやがって……。オレは好き好んで、ここに来たわけじゃねえんだぞ……。
腹が立って、悲しくて、仕方なかった。
オレの話をまともに聞いてくれるヤツは、この世界にはいないんだ。
現界での生活を嫌がった罰なのか……。
あそこには、家族も友達もいた。嫌な奴もたくさんいたが、ちゃんと話は聞いてくれていたように思う。
このまま、言うとおり流されちまっていいものなのか?
思いの内を誰かに聞いてもらいたいのだが、どうすることも出来ない。
とそのとき、ある人物が頭に浮かんできた。
(そうだ!……バードランド……あのじいさん…… )
この世界で、唯一オレの話を黙って聞いてくれた人だった。
此処を抜け出し、途方に暮れていたオレを助けてくれた。
あの人なら、何かいい知恵をさずけてくれるかもしれない。
とにかく今は、まだ此処を抜け出せる状態ではない。
目の回復を待って、手遅れにならぬうちに逃げ出さなければならない。
……再び、オレは、脱走計画を練ることにした。
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