21
「君たちは……何故こんなところに住んでいるんだい? 」
ジョイと二人になったオレは、食器の片づけを手伝っていた。
「じっちゃんは、この森の管理を任されているんだ。……迷って入り込む人がたまにいてね。……にーちゃんには、びっくりしたけれどさ 」
ジョイは手馴れた様子で、作業をこなしてゆく。
この年で家事はすっかり出来るようだ。
年上のはずのオレとはまるで違う
「『風読み』っていう人が見つかったら、にーちゃんは、帰っちゃうの? 」
ジョイが尋ねた。
「うん……できればね 」
「あの……おいらはさー……にーちゃんがここにいてくれたらって思うんだ。
ここら辺はね、長い間、決まった『指導者』様がいなくてさ。あまり治安も良くないし、土地としても価値が低いし……。にーちゃんの偽者もたくさん現れてさあ、いままで沢山殺されているよ」
……殺されているって、相当怖い世界なんだ、ここって……。
「……オレだって、偽者かも知れないだろ?」
オレは、子供相手にむきになっていた。
「にーちゃんみたいな人、初めてみたよ。面白いなぁ……。
『指導者』様って、お偉い人で、雲の上のような存在だって、じっちゃん言ってたもん 」
ジョイは、素直だ。
「多分、オレはそいつらとは違うんだろ?オレは、お偉い人でも何でもねえ……大体好き好んで、こんな所に来たわけじゃねえしな 」
「あのさー……もし元の世界に帰れなくても、おいらたちと、ここに住めばいいじゃん 」
「おまえ……勝手に決めんなよ 」
……と言いながらも、オレは彼の申し出が嬉しかったのだった。
知らない土地で、なぜか居場所を見つけたような気がしていた。
バードランドの留守中、施設の関係者らしいものが、入れ替わり立ち替わり、何度か訪ねてきた。
オレは、奴らの気配を感じるとバードランドの書庫に隠れて、気配がなくなるのを待った。その間、ジョイが応対してくれていた。
「しつこいなぁ。あいつら。……よっぽど慌てているみたいだぜ 」
ジョイは、あきれたように、彼らが帰った後に、鍵をかけた。
「逃げ込むところって……大体決まっているもんな 」
オレは、書庫から出て、椅子に腰掛けた。
「……バールの奴、今日も来てなかったな 」
いつもなら、血相を変えて、あいつが飛んでくるに決まっているが……。
今回は珍しく、他の奴らばかりだ。
「うん。おいら、あいつ嫌いだから、来ないほうがいいけれど…… 」
「ジョイは、バールが嫌いなのか?」
「ちっとも笑わないんだもん。まじめだけどね。固すぎなんだよ、あいつは 」
ジョイの言葉に、オレは、笑った。
「確かにな……面白くない奴だよな 」
その日の夜遅く、バードランドは若い男を連れて戻ってきた。
年の頃は……オレとそんなに変わらないようだった。
バードランドが連れ帰った男は、名前を「テシウス」と名乗った。
風読みが出来る男だという。
「あんたかい。神殿に現れたとかいうヤツは。」
彼は、嫌悪をあらわにしていた。無表情の顔、わざと無視するような態度。
「君に、頼みがあるんだが…… 」
オレは、挑発にに乗らないように、声を抑えて話した。
「俺は、あんたの頼みなんか聞くために、ここに来たわけじゃない。
ひとこと言いたくてやってきただけだ 」
「……は? 」
「あんたのせいで、兄の処刑が決まった 」
「?何を言ってる?……オレはあんたもあんたの兄も知らねえぞ?」
心当たりはまるでない。
「あんたを処分すれば、金がもらえると兄は唆されたらしいが、あんたは、どんな手を使ったのか『神の水』からまんまと逃げやがった 」
ああ!……オレを突き落としたヤツが……。あいつのせいで、オレがどんなに長い間苦しんだか……。
「あいつが……オレを落としたヤツが兄なのか?」
「うるさいっ!あそこに落ちて、生きているヤツなんて今までいないんだっ!……騙されないぞ、俺は 」
テシウスはすっかり興奮している。オレは騙してなんかいない。
「……あれから、兄はお前を逃がした罪で牢屋にずっと繋がれたまま……。
……もうすぐ、首をはねられるか、へし折られるそうだ 」
テシウスが泣き出した。
「兄を返してくれ!そうすれば、お前の言うことを何でも聞いてやる 」
バードランドも宥めてくれていたが、ヤツは一向に耳を貸そうとはしなかった。
おい待てよ!騙されたのはオレのほうで、あんたの兄に突き落とされて、地獄を味わったんだぞ!……言ってやりたかったが、彼の余りの憔悴ぶりにそれ以上責めることは出来なかった。
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