テシウス
「バール様が以前から話されていたことだが……まさか本当に起こるとは…… 」
じいさんの話によると、バールはオレが現れることを、随分前から知っていたらしい。
どういうことなんだ?オレは、あいつに見つかって捕えられるまでは、そんなこと全く……。
……何がなんだか、まるで分からない。
はじめは、側によるのも遠慮して、ぎこちなかったジョイだが、次第に打ち解けてきて、以前の人懐っこい笑顔を見せてくれた。それだけでも、オレは癒されたような気がした。
「今度こそ……あの場所から出してもらえなくなりそうで…… 」
「おそらくは…… 」
重い空気が流れた。
「あの……もう、『現界』には、もどれないのかな?」
オレの問いに、バードランドは……暫く考えた後に、話してくれた。
「この世界には……現界との結界があります。……どの段階の世界にもこういう接点はあると見られておりますが……それをいつどの場所に出来るかを予想出来る資格をもつ、『風読み』という者が存在することをご存知ですか? 」
……風読み?……何処かで聞いたことある言葉だぞ? ・・・・・・。
……と思って、はっとした。
オレを『神の水』に突き落とした男から聞いた言葉だ。
奴は、あながち……嘘を言っていたのではなかったのかもしれない。
「その……『風読み』って、一体どこにいるのですか?」
「私も会った事は無いがね。うわさでは、ここを降りたふもとの街はずれに住んでいるらしいんだが……」
「ふもとの街って……随分ありそうだな……」
何度もいうが、この辺りにはバードランドの小屋とあの逃げてきた建物以外何も無いところだ。皆目、検討もつかない。
「……それでも、探してみます。オレにはそれしか考えられない……」
「その姿で?おまいさん、知らない場所へ行きなさるのか?」
バードランドは、意味ありげなことを言った。
「はっきり言って、その姿形では……あまりにも目立ちすぎる 」
「あ……」
……やっぱり、変なのか。……自分でも、気持ち悪いもんな。
髪は伸ばし放題……といってもきちんと手入れをしてもらっていたので、汚くはないはずだが、長さが尋常ではない。足先まで届きそうだ。
肌の色だって、以前は日焼けしてたし、訓練生たちの中に同じような背格好の奴は多くいたんだ。
でも、今はペンキでもぶっかぶったように異様に白い。白すぎる。
……血……流れてんのか?みたいな……。
目だって、さっき見せてもらったけれど、日本人の色じゃなかった。
……エメラルド・グリーンってゆうか……。綺麗な色なんだけれど……今まで見たこともない色だ。
異国の人?……という感じでもない。
人型をしているけど、まるで生き物……って感じじゃないみたいなんだ。
うーん……頭の悪いオレには、うまく説明できないけれどさ。
「あっ!……兄ちゃんの姿さー……何処かで見たことあると思ったら……わかったよ。
あの建物の祭壇にあった彫刻とそっくりだよ。……思い出したよ。
すっげぇ綺麗だなって、祭事の度に思って見てたんだ 」
ジョイが、食器を並べながら、話してくれた。
「……なんか、オレって……いつの間にか、『指名手配犯』にでもされてそうだな 」
祭壇の彫刻にねえ……。
……しかも、オレがこちらに連れてこられるよりも、前にあったなんてさ。
「分かりました。……仕方ない。私が行くしかないのですね 」
バードランドは、苦笑した。オレは、慌てた。
「でも…… 」
「他に、方法は無いようですが?」
「オレのために、そこまでしてくれとは…… 」
いえねーよな。……オレは、言葉に詰まってしまった。
気は引けるが、結局頼むしかない。
「帰るまでの留守を頼みます。ジョイがいるので心配は要らないはずです 」
この世界に来て、唯一の心許せる人。バードランドじいさん。
思えば、現界には、こういう人たちがたくさんいたんだなぁ……とオレは今更、気づかされたのだった。
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